松田崇弥(写真左)
株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長Co-CEO
増岡洋志(写真右)
株式会社鉃鋼ビルディング 取締役
※所属、役職名は対談実施時のものです。
鉃鋼ビルディングは新たな取り組みとして、ヘラルボニーが提供する組織のDEIを促進する体験型プログラム「DIVERSESSION PROGRAM(ダイバーセッション・プログラム)」をテナント企業の皆さまとともに導入します。そのヘラルボニーもまた、次のステージに向けてのアクションを起こしています。対談の後編では、両社の新たな取り組みと今後の展開について語り合いました。(全2回のうちの後編。前編を読む)。
DEIへの取り組みはテナント様と共に
増岡 最近、企業経営において「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」という言葉が注目されていますね。当ビルでは、DEIに関する取り組みの一環として、多様な人々に対応する「インクルーシブデザイン」を取り入れています。ワークショップを開催して、テナント企業にお勤めの車椅子の方や障害のある方に働きやすさや移動しやすさなどをチェックしていただき、ご指摘を受けた箇所はすぐに是正しました。そして今年の9月には、ヘラルボニーさんの「DIVERSESSION PROGRAM(ダイバーセッション・プログラム)」を実施し、テナントの皆さまにも参加していただければと思い、ご案内させていただく予定です。
松田 「ダイバーセッション・プログラム」はダイバーシティへの考え方を養う体験型プログラムです。いろいろな企業の皆さまに研修プログラムを導入いただいていますが、自社のみならずテナントの皆さんにも研修を開放するというのは御社が初めてです。これには驚きました。テナントの皆さんと、というのが素晴らしいですね。商業フロアは異彩作家たちのアートで彩られ、研修ではそのアーティストたちを受け入れるために必要となる考え方、つまり障害の有無や価値観などが異なる多様な人々の存在を知ることを擬似的に体験できる。そんなビルってすごい。と感銘を受けました。
増岡 当社はヘラルボニーさんと関わりを持たせていただいて、ダイバーシティやノーマライゼーションの意識も一層高まりました。これから社会全体で目指すべき姿だと思います。また、私たちはビルの中でテナント企業の皆さまとの一体感もつくっていきたい。それを最大限にするために、テナントの皆さまにも研修を体験していただき、一緒に考えていこうということで計画しました。
松田 でも本当に、テナントの皆さんが研修を受けると聞いた時に、そういうやり方があるのかって驚きました。ビジネスって、自社の売り上げや利益を上げていくことを目標にしますよね。でも、ビルのコンセプトやテナントの皆さんの意識ということを重視している。いずれ回り回って鉃鋼ビルディングへの愛着になるかもしれないけど、それ以上に志が高い。そういうやり方ってすごく面白い。このビルのテナントの皆さんがこれからのモデルケースになることができたら、かっこいいですね。
次のステージを目指して
増岡 ヘラルボニーさんは、私たちが考えている何倍ものスピード感で成長していて、いつも感心しながら拝見しています。そして今年、さらに飛躍するようですね。
松田 まさに世界に挑戦していくぞというタイミングで。今年の5月に、ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなどのメゾンを傘下に持つ世界最大の複合企業LVMHが設立した世界各国の革新的なスタートアップを評価する「LVMH Innovation Award 2024」にて、「Employee Experience, Diversity & Inclusion」カテゴリ賞を受賞しました。受賞特典として、パリ13区に位置する世界最大級のスタートアップ集積施設「Station F」へ入居します。また、LVMHグループの75のメゾンとのコラボレーションの可能性が期待できます。7月に初の海外拠点としてフランス・パリに現地法人を設立しました。世界中の主に知的障害のある作家の方々と契約をして、現地でも展開します。この前、ルイ・ヴィトンのブランドディレクターの方に「あなたたちは世界の人権感覚を前進させられるかもしれない」と言われました。世界に挑戦するためのチケットはいただけたと思うので、ちゃんと実現できたらいいなと思っています。
増岡 世界を目指す一方で、岩手への強い思いをお持ちですよね。
松田 そうですね。岩手ではもっと芯を食ったことをやっていかなきゃいけないと思っています。健常者前提の資本主義経済で物事を見て、営利企業として活動していると、私たちが目指す本当の課題を見失うような……福祉にはお金がかかります。障害はグラデーションで、同じ障害がある人がいないため、専用の受け入れ態勢が整えられないなど、資本主義の考え方から外れ、解決ができていないことも多いんです。
そのため、地元の岩手ではまちづくりを意識的に行っており、いつかはヘラルボニーが資金を出して財団をつくることができるかもしれませんし、障害のある方が当たり前に過ごせるグループホームを建てたりして、会社としてこの問題に取り組むことができるといいな、と思っています。そういうことは、よく文登とは話していますね。
増岡 そうですか。私たちも小さいステップではありますが、目的意識を持って、他社さんにないような取り組みをしていきたいと思います。
松田 御社はこれからどんなふうに成長を描かれているのでしょうか。
増岡 株式会社鉃鋼ビルディングとしては東京が主な拠点になっていますが、当グループは広島や海外にも拠点があります。今後は地域と地域、日本と海外を結んで、全ての人、場所を巻き込んで流れをつくれば、もっとインパクトを与えられるのではないかと思います。大手企業ではできないようなこともすぐに決断しフットワークを軽く、イノベーションを起こしていきたいですね。
松田 これからも、いろんな形で組んでいけるといいですね。よろしくお願いします。
増岡 今日は大変勉強させていただきました。事業は違えど私たちが見習うべき点は、強みが明確であること。アーティストとの絆とか信頼関係ですね。あとアートや商品のかっこよさ。パッと見た時に、欲しいと思える魅力がある。私たちもスローガンやテーマに自信を持ち、自分たちの強みをきちんと実行していけば前に進めるのではないかと感じました。本日はありがとうございました。
松田 こちらこそありがとうございました。