鉃鋼ビル以上の鉃鋼ビルへ

災害対応プロジェクト
ビルを利用される皆さまの安全・安心を提供するため、地震・火災はもとより富士山噴火やパンデミック(感染症流行)を含む災害を視野に入れた防災能力の向上を推進するプロジェクトです。

鉃鋼ビルディングが千代田区と進める「帰宅困難者」支援とは

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協定締結式の様子: 樋口高顕 千代田区長(左)と増岡真一 鉃鋼ビルディング社長(右)


東京都心部に位置する大手町・丸の内・有楽町エリアは、日本を代表するオフィス街であり、経済の中心地です。

そこに立ち並ぶ大規模複合ビル群は、企業の活動拠点であると同時に、多くの人々が行き交う公共空間としての役割も担っています。そのため、これら施設の安全確保、特に防災対策は、地域全体の安全に直結する極めて重要なテーマです。

このような背景のもと、株式会社鉃鋼ビルディングは東京都千代田区とともに、2024年11月に「大規模災害時における帰宅困難者等受入れに関する協定」を締結しました。今回は、鉃鋼ビルディングが千代田区とともに取り組む「帰宅困難者支援」について、プロジェクトのメンバーがご紹介します。


協定締結の背景──なぜ今「帰宅困難者受け入れ」が必要なのか

東京駅周辺の呉服橋交差点の様子

首都直下型地震の発生が現実味を帯びる中、東京都心では大量の帰宅困難者が発生することが予想されています。2022年5月に東京都防災会議が発表した「首都直下地震等による東京の被害想定」によれば、巨大地震の発生時には、千代田区全域で約59万人の帰宅困難者が発生すると見込まれています。

2011年3月の東日本大震災時には、東京駅周辺で鉄道など公共交通機関の運休により、多くの人々が帰宅困難者として街中に滞留する事態が起きました。行政機関や企業が集中し、多くの商業施設が集積する千代田区、特に東京駅周辺では、こうした混乱を最小限に抑えるための事前対策が急務とされてきたのです。

千代田区は、かねてより地域の安全・安心を守る取り組みの一環として、民間事業者との連携を積極的に進めてきました。

鉃鋼ビルディングもまた、自社が所有する「鉃鋼ビルディング」の耐震性能と設備環境を活かし、2015年の建物竣工時より、飲料水・食料の備蓄を行うなど、地域社会に貢献する手段を模索してきました。 


鉃鋼ビルディングのこれまでの取り組み

本部訓練において収集した情報をホワイトボードに集約している様子

対策本部立ち上げ訓練の様子

各種災害への基本的な対策は、社内の「災害対策規程」で取り決めていますが、震災発生後の、対策本部立ち上げ・建物応急危険度判定・帰宅困難者受入・負傷者対応といった一連の行動手順についてシミュレーションを行い、見直しを適宜行ってきました。

また、行政機関の取り組み等を参考に、地域・施設の特殊性を加味して、独自の「帰宅困難者受入対応マニュアル」を策定しています。受入体制・運営計画全般を取り決めているほか、要配慮者への対応、インバウンドにより急増する外国人観光客への多言語対応等、いつ震災が起きても安全・安心な一時滞在施設の運営ができるよう配慮しています。

こうした経緯から、千代田区 災害対策・危機管理課との複数回にわたる協議を重ねた末、2024年11月に「大規模災害時における帰宅困難者等受入れに関する協定」が正式に締結されました。 


安全性と機能性を兼ね備えたビルが災害時の拠点に

中間層免震構造の説明図(オイルダンパー、U型鋼材ダンパー、天然ゴム系積層ゴム支承の3つで構成されています)

中間層免震構造のイメージ図

協定に基づく受け入れ施設である「鉃鋼ビルディング」は、震度7にも耐えうる中間層免震構造を採用した耐震性を備えたオフィスビルです。2011年の東日本大震災の教訓を生かし、災害時には最大1,200人の帰宅困難者を一時的に受け入れられる体制を整備しています。

防災備蓄品については、3日間に相当する飲料水や食料を備蓄し、その一部をハラル対応に変更しています。また、アルミ保温ブランケットなどの災害対応物資を備蓄していることから、その提供も行います。

このほか、非常用発電機の設置や防潮板の設置に加え、定期的な防火・防災訓練を通じて、防災に対するハードとソフト両面での万全な備えを整えています。


官民一体となった帰宅困難者対策訓練

協定締結後の2025年2月には、千代田区主催の「千代田区帰宅困難者対策訓練」にも初参加しました。

鉃鋼ビルディングは、千代田区の防災ネットワークの一員として、実際の災害発生を想定した受け入れ手順を確認し、東京都帰宅困難者対策オペレーションシステムを運用した情報伝達訓練を実施しました。

今後も千代田区と連携し、このような共同訓練を積極的に進め、官民一体となって防災力の強化に取り組んでいく方針です。

鉃鋼ビルディングは、災害時に信頼される拠点、そして地域社会を支えるインフラとしての機能を果たす企業であり続けるべく、千代田区や近隣住民の皆様とともに、準備を進めてまいります。


千代田区 政策経営部 災害対策・危機管理課 様からのコメント

千代田区では約59万人の帰宅困難者が発生すると見込まれており、帰宅困難者をどのように保護し、誘導すべきか、日々多くの来訪者を迎える都心部の自治体として、課題認識をもって取り組んでおります。

令和6年11月、千代田区は鉃鋼ビルディング様と「大規模災害時における帰宅困難者等受入れに関する協定」を結びました。

大規模災害の発災時に鉃鋼ビルディング様には1,200人の帰宅困難者を受け入れていただくこととなり、東京駅周辺地区における帰宅困難者対策への多大なお力添えをいただいております。

千代田区は、災害時により多くの帰宅困難者の安全を確保するため、引き続き区内事業者様との帰宅困難者受入協定を推進してまいります。

鉃鋼ビルディング様には引き続き防災力の強化に取り組んでいただくとともに、区の災害対策事業へのご理解・ご協力をいただきますようお願い申し上げます。


千代田区防災ポータルサイト・防災アプリについて

千代田区防災ポータルのウェブサイトトップページ画面

今年度より千代田区では、千代田区防災ポータルサイト・防災アプリ(iOS用Android用の運用を開始しています。

本ポータルサイト・アプリは、平時には防災に関するお知らせや交通情報等のほか区の防災について学べるコンテンツを提供し、発災時には避難指示や避難所の開設状況等の情報をリアルタイムに発信するものです。

防災意識を高めていただくとともに災害への備えにご活用ください。

【千代田区防災ポータル】
https://bosai.city.chiyoda.lg.jp/


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東京都心部である大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアは、日本を代表するオフィス街であり、経済の中心地です。

そこに立ち並ぶ大規模複合ビルは、企業の活動拠点であるだけでなく、多くの人が行き交う公共空間でもあります。そのため、これらの施設の安全確保、特に防災対策は、地域全体の安全に直結する重要なテーマとなっています。

株式会社鉃鋼ビルディングは、前身のビル時代から、地域の消防団に社員を派遣しています。今回は、消防団の活動に参加する社員を取材しました。 


消防団活動の背景

鉃鋼ビルディングでは、2003年から社員を地域の消防組織である丸の内消防団に派遣する取り組みを行ってきました。

丸の内消防団の活動地域となる大丸有エリアの大規模複合ビルは、多くの企業が入居し、日々多数の人々が働く場所であり、ショップやレストランなどの商業施設にもさまざまな目的をもった人たちが訪れる場所です。こうしたビルの安全管理は、私たち大規模複合ビルを管理する企業にとって重要な責務であり、単なる建物の維持管理にとどまらず、災害時の迅速な対応力が求められます。

社員が消防団活動に参加することは、ビルを利用されるお客様の安全を守るだけでなく、地域の防災リーダーとしての役割も期待されています。この取り組みは、企業の社会的責任(CSR)としてだけでなく、都市型災害への備えとして、必要であると考えています。 


社員が消防団員として活動する意義

私たち消防団に加入している社員は、非常時には消防団員として活動します。消防団員は、「非常勤特別職の地方公務員」としての地位を持ち、自治体と連携しながら防災活動に携わります。その業務には、災害発生時の救助活動、避難誘導、地域防災訓練への参加などが含まれます。

このような消防団活動を通じて、火災・地震・台風などの緊急時に必要な知識と技術を習得し、実践を積むことによって、災害発生時の安全確保の強化に役立てています。

また、私たちが所属する丸の内消防団は、住民中心となる他の地域の消防団とは異なり、企業で働くビジネスパーソンが多く所属しています。さまざまな企業で働く消防団員と消防団活動を通じて関係を深め、協力をしあうことで災害時の円滑な避難誘導や救助活動に貢献することが期待されています。

鉃鋼ビルディングでは、私たちが生業(なりわい)としている、大規模複合ビルの管理業務と消防団活動を結びつけることで、企業と地域の防災意識が高まり、安全な都市環境の形成につながっていると考えています。


消防団活動の防災訓練

丸の内消防団では、定期的な防災訓練が行われます。私たちは自治体や消防署などと連携し、ビルの管理者として実務に直結する防災訓練に参加しています。

訓練は、火災発生時の初期消火訓練、避難誘導シミュレーション、災害時のコミュニケーション訓練などが含まれます。特に、大規模複合ビルでは防災計画の策定が欠かせないため、消防団活動を通じて、建物固有の課題を見極めながら訓練を行っています。

例えば、社員が消防団員として参加した訓練では、ビル内に多数の企業が入居していることを想定し、避難経路の確認や、業務時間内での安全誘導のシミュレーションを行います。この経験が日常の施設管理業務にも活かされ、災害時のスムーズな避難体制の構築につながっています。


地域貢献と広範な活動

消防団活動は地域の防災対策だけでなく、社会全体への貢献にも広がっています。毎年開催される東京マラソンでは、消防団員が安全管理の一環として警備・誘導を行い、数万人のランナーと観客の安全を守る役割を果たしています。このような活動は、防災の枠を超え、地域の安全に貢献する機会となっています。

こうした消防団での取り組みは、「人・街・時をつなぐ」という現在の鉃鋼ビル建設時からの開発コンセプトとも深く関わっています。日々の施設管理業務を通じて培った知識と経験を、地域全体の安全確保に活かすことで、企業と地域が協力しあいながら防災体制を強化し、持続可能な都市環境の形成に寄与しているのです。


大丸有エリアの安全は、企業と地域がともに築き上げるものだと思っています。社員の消防団活動を通じて、防災対策の実効性を高めながら、未来に向けてより安全な取り組みを推進することこそ、災害に強い「街づくり」の核心となると信じています。

今後も引き続き、鉃鋼ビルと地域のさらなる防災活動の発展に貢献する活動を続けていきます。


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鉃鋼ビルディングは、旧ビルの時代から災害対応の施策に取り組んできました。現在のビルは、地域初の中間層免震構造を採用しており、震度6強までの地震に対して建物主要構造部の損傷を防ぎ、震度7クラスの地震でも継続利用が可能な耐震性能を備えています。

そのような設備面だけでなく、運用面では、火災・地震・浸水その他の災害発生時に適切に行動し、人命の安全及び被害の軽減を図ることが必要です。鉃鋼ビルディングでは、大規模地震による火災発生を想定して年2回の総合防災訓練を実施しています。

今回は、オフィス・商業施設が入居する大規模複合ビルの防災訓練の準備から実施に至るまで、その裏側を管理営繕部の石橋健次さんが説明します。


石橋健次
株式会社鉃鋼ビルディング 管理営繕部 
担当部長
鉃鋼ビルディング防災管理者


鉃鋼ビルの災害対応への考え方

ビルへお越しになる皆さまには快適に過ごしていただける環境を、ビルでお仕事をされている皆さまにはより良いパフォーマンスを発揮していただける環境を提供することが私たちの使命です。特に企業活動においては、毎日365日24時間、あらゆる情報が瞬時に世界中へと伝わり、停止することはまずありません。

私たちは、どんな災害が起きてもビル内で事業が継続できるよう、日頃より皆さまの安全・安心を確保するための予防活動やシステムの構築に努めています。


大規模複合ビルは「特定用途防火対象物」として消防訓練を実施

鉃鋼ビルディングは、オフィス、サービスアパートメント、商業施設(郵便局、銀行、飲食店、ショップ、クリニック、託児施設等)が入居するほか、リムジンバス発着場、会員制ラウンジ、貸会議室なども複合する大規模ビルです。

テナント企業で働く方や商業施設を利用される方などを合わせて、平日は数千人の方が滞在しています。

このようなオフィスビルは、消防法及び東京都火災予防条例により、特定用途防火対象物として年2回以上の自衛消防訓練を実施することが義務付けられています。


入居テナントへの消防計画作成アドバイスと提出代行

当ビルが2015年に竣工した際に鉄鋼ビルディング全体の消防計画を策定し所轄の丸の内消防署へ提出をしています。それ以降、テナントの構成員変更や自衛消防隊の構成員変更があった際には、毎年3月に消防計画の変更届を丸の内消防署へ提出します。

入居されたテナント企業におかれましても、入居後直ちに消防計画を消防署へ提出する必要があります。入居されたばかりでの消防計画作成は難易度が非常に高いため、管理営繕部がオフィスにお邪魔して全体の消防計画の説明と同時に、その企業に適した消防計画作成のアドバイスを実施しています。

各企業が作成した消防計画は管理営繕部にて一旦、お預かりして内容精査のうえ、提出を代行しています。消防署の受付印が押された消防計画を入居企業様に返却する際には、避難経路、消防設備、防火管理上の注意事項等をテナントサービスセンターの協力を得ながら説明します。

こうしたサービスは、働く皆さまの安全・安心につながると同時に、日常からのコミュニケーションを通じて、いつでも専門的な助言が受けられ助かっているとの評価をいただいております。


総合防災訓練のシナリオ策定

鉃鋼ビルディング共同防火・防災管理協議会の様子

総合防災訓練のシナリオは大規模地震による火災発生を想定して作成します。火災発生場所は飲食店舗1カ所、事務所1カ所とし、「事業所地区隊」として総合防災訓練のシナリオに組み込まれます。

訓練当日は、事業所地区隊長の指揮のもと、初期消火、防火区画形成、119番通報、避難誘導、本部自衛消防隊への引渡し等の一連の流れを実技形式で実践していただきます。

事業所地区隊に参加していただくテナント企業は防災訓練の3か月前に選出し、訓練本番前に3~4回リハーサルを実施します。

訓練実施にあたっては、日時、内容、参加予定人数を記載した「自衛消防訓練通知書」を丸の内消防署に提出し、訓練当日には消防官に視察と講評をお願いしています。

また、毎年4月第3週に入居されているテナント企業の防火・防災管理者にお声がけし、「鉃鋼ビルディング共同防火・防災管理協議会」を開催しています。

ビル全体の消防計画の変更点について協議するほか、前年度の防火・防災活動の活動報告、ビルの消防設備と震災対策の状況などの説明とあわせ、総合防災訓練の事前説明会を実施しています。


避難地点までの誘導、個別訓練の混雑解消、訓練後の帰路誘導は、テナントサービスセンター、協力会社、「丸の内消防団」に所属する当社社員が対応しています。

訓練当日は、最終避難地点である南広場に水消火器操作訓練、煙体験ハウス、起震車、傷病者受入訓練(トリアージ)の場所を設営し、模擬訓練や体験を通して防火・防災意識向上に役立つ各種イベントを企画・実施しています。

水消火器訓練は毎回多数の方に参加いただいています。

煙体験ハウスは火災が発生した状況を再現し、視界が悪い中での避難の難しさを体験します。

起震車は千代田区役所から借り受け、実際に地震が起きた際に冷静に対処ができるようシミュレーションを体験します。

傷病者受入訓練(トリアージ)は応急救護ブースを設けてけが人の応急手当の方法を学びます。ビルに入居する2つのクリニックの医師・看護師に協力を依頼しています。


このような準備を経て、訓練が毎年2回実施されます。訓練終了時には、視察に来ていただいた丸の内消防署の警防課担当者より、訓練全体を通した講評をいただきます。その結果を受け、半年後の総合防災訓練の実施に向け改善を行うことになります。PDCAを回し、不備がないよう、常に努めています。

訓練後の丸の内消防署による講評の様子


今回は総合防災訓練の舞台裏を紹介しました。災害に備えるための継続的な訓練と備えは、企業活動において極めて重要です。

私たちの取り組みが、ビルを利活用する皆さまの安全と安心の確保、事業継続を支援する一助となればと思っています。

今後も、テナント企業の皆さまのご協力を賜りながら、より一層の防災対策の強化に努めてまいります。


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