鉃鋼ビル以上の鉃鋼ビルへ
時と場をつなぐこみち・プロジェクト

快適な環境づくりのため、ビル西側通路の緑地帯に再現された自然林と散策路の整備に取り組むプロジェクトです。

鉃鋼ビルの緑地が果たす役割ー「江戸のみどり登録緑地」登録を受けてー

前回の「『江戸のみどり登録緑地』として登録」では、制度の概要と鉃鋼ビルディングが登録を目指した経緯について、解説しました。今回は、鉃鋼ビルディングの取り組みが「江戸のみどり登録緑地」において評価を受けた点について、制度を所管する東京都環境局からの講評を交えながら、プロジェクトメンバーがその取り組みを紹介します。


緑地を背景に、取材対象である男性5人が談笑している


都心に広がる自然

ビルを背景に、緑地帯を取り囲むように椅子やテーブルが設置されている

ビル3階にある飲食店内の緑地帯

鉃鋼ビルは、東京駅から徒歩2分という都心の中心地に位置しています。その敷地内に広がる約1,000㎡の緑地は、「江戸のみどり登録緑地」として登録され、持続可能な都市空間づくりのモデルケースの一つとなりました。

この緑地は、生物多様性の保全、都市部の環境問題への取り組み、地域社会全体への持続可能な発展に貢献しているなどの面から、「江戸のみどり登録緑地」の制度を所管する東京都環境局より高く評価されました。その評価の背景には、私たちが取り組んできた具体的な活動にあると考えています。


在来種の植栽と自然空間の創出と緑地管理

鉃鋼ビルの緑地は、「自然植生の復活」をコンセプトに掲げ、地域固有の植物である「在来種」を積極的に植栽しています。

在来種とは、地域固有の自然環境で古くから生育している植物を指します。在来種は自然環境に適応しているため、生態系の基盤を整え、生物多様性の維持に寄与するとされています。鉃鋼ビルの緑地には、常緑樹のタブノキ、落葉樹のイロハモミジやエゴノキなど、多様な種類の在来種が植えられています。

新緑のイロハモミジの木

イロハモミジ(2024年5月撮影)

左からイロハモミジ、ヤマボウシ、スダジイ

さらに、化学薬品を使用した除草剤や殺虫剤の使用量を減らし、昆虫や鳥類などが安心して暮らせる空間づくりを進めるために巣箱や石積み、バードバスを設置するなど、生きものの生育環境への配慮に対する取り組みも評価されています。こうした成果が東京都環境局から「優良緑地」として評価を受けたポイントとなっています。

土の上に石が積まれている

小さな生きものが隠れる場所として設置された石積み

地面にひざまずき、植え込みに置かれたバードバスの容器の手入れを行う作業服姿の女性

鳥が水を浴びたり飲んだりするためのバードバスは、定期的に手入れを行っています。


皇居とつながる生態系ネットワーク

樹上で巣箱の設置作業をしている人物

生態系維持のため巣箱を設置

鉃鋼ビルの緑地が特別である理由の一つは、その立地条件にもあります。都心のビル群に囲まれながら、近隣には広大な自然と水辺を有する皇居があります。

皇居には東京の原生林に近い生態系が残されており、生物多様性を支える重要な拠点となっています。この皇居と東京駅周辺エリアに広がる「都市生態系ネットワーク」の中継地点としての役割を果たそうとしています。


持続可能な緑地管理

樹木の剪定作業をしている人

緑地計画のなかでも鉃鋼ビル西側の緑地帯は極めて多様な植生を再現しています。しかしながら、この緑地帯はビルの谷間に位置しており、樹木の生育に関する条件の厳しさが際立ちます。

日照や風通しが制限されるため、低木や下草にも日光が届くよう剪定の工夫が行われています。また、通行の妨げや安全上の問題を防ぐため、高さや配置に細心の注意を払っています。


散策路での工夫と持続可能な循環

樹名札の付いたスダジイの幹とヒノキのベンチ

ビル西側に広がる緑地帯の散策路では、地元資源の活用による森林循環の促進を図るため、東京・多摩産のヒノキを使ったベンチを設置し、人々が自然をより身近に感じられるような工夫をしています。

また、散策路を利用する方々が植栽された木々について学び、楽しめるように木々に紹介プレートを設置するなど、生物多様性への理解を深める活動も評価されています。


「江戸のみどり登録緑地」の連携と未来への期待

東京都では、「江戸のみどり登録緑地」に登録された企業同士が連携し、情報交換や課題共有を行うためのプラットフォームとして「連絡協議会」を定期的に開催しています。

この協議会では、専門家の講演、緑地管理に関するノウハウの共有、登録緑地の見学などを行い、持続可能な緑地運営のための新しい知識や連携のきっかけが提供されています。今後は私たちもこの会合に積極的に参加し、ネットワークを広げ、活動の発展を目指していきたいと考えています。


東京都環境局からの評価―鉃鋼ビルディングへの期待と役割―

メジロのイラストをモチーフにした「江戸のみどり」シンボルマーク

【東京都環境局様よりコメントをいただきました】
春には、散策路に設けられたベンチで木々を眺めながらリラックスする人々の姿が多く見られます。また、皇居や近隣の公園から飛来した野鳥や蝶が羽を休める場面も観察されています。この緑地が、ビルを訪れたお客様にとって楽しみの場であると同時に、ビルで働く人々にとっての癒しの場になればと思っています。

鉃鋼ビルディングの緑地は、2015年の竣工以降、10年間にわたり生態系に配慮した環境を維持され続けてきたと伺っています。この取り組みは、多くの都民や企業に対して、生物多様性保全の重要性を示し、都市部の環境問題への取り組みを啓発する役割を果たしています。

東京都としては、今後もこのような緑地の価値を広く知っていただくため、イベントでのパネル展示やホームページ・SNSでの情報発信を進めていきます。鉃鋼ビルディングには、引き続き環境整備に取り組み、「江戸のみどり登録緑地」制度や自社緑地のPRを通じて地域社会全体の持続可能な発展に貢献することを期待しています。


東京都「江戸のみどり登録緑地」ウェブサイト
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/green/green_biodiv/edo_regist

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「江戸のみどり登録緑地」として登録

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「江戸のみどり登録緑地」として登録

両サイドに木々が植えられているビル屋外の通路

前回の「都心オフィス街の中で『自然植生の復活』」でふれたように、2015年のビル竣工以来、鉃鋼ビルディングは土地に由来する植生を重視するという緑化事業に取り組んできました。

そして、2025年3月、鉃鋼ビルディングは、東京都「江戸のみどり登録緑地」優良緑地として登録されました。

今回は、「江戸のみどり登録緑地」制度の概要と登録を目指した経緯について、プロジェクトのメンバーが説明します。



「江戸のみどり登録緑地」について

「江戸のみどり登録緑地」は、2017年に東京都が開始した制度です。この制度は、明治時代以降、急速に発展した東京で、開発により失われた自然を再生することを目的としています。

具体的には、東京にもともと分布している植物を植えていくことで地域の緑をつなぎ、生態系の回復を図る取り組みを支援しています。

東京都は、この取り組みに貢献する民間緑地を登録・公表し、自然環境や生きものの営みを取り戻す努力を後押ししています。

「江戸のみどり登録緑地」の対象となる緑地は、1,000㎡以上の敷地を有する民間建物等の敷地内の緑地であることが前提とされています。このほか、登録要件として、

(1) 樹木が植栽されている区域の面積が 100 ㎡以上であるもの
(2) 在来種の樹木の面積割合: 高木 40% 以上、中木及び低木 10% 以上
(3) 在来種の樹木の種数:高木4種以上、中木及び低木3種以上

があります。

この登録要件に加え、化学薬品を使った除草剤や殺虫剤の使用を低減したり昆虫や鳥類などのえさ場や隠れ場所を確保したりするなど、特に、生きものが生息するための環境に配慮した取り組みを行っている場所は「優良緑地」として認められます。今回、私たち鉃鋼ビルディングは、この「優良緑地」として登録されました。 


「江戸のみどり登録緑地」を目指した理由

私たち鉃鋼ビルディングは、前回の「都心オフィス街の中で『自然植生の復活』」でお話ししたように、ビル西側の緑地帯を中心に、積極的に在来種の植物を植えてきた経緯がありました。

企業が保有する緑地に対して評価・認定をする環境認証制度は他にもありますが、東京都の「江戸のみどり登録緑地」の考え方が私たちの取り組みに一番近く、在来種の植栽をもっとも評価していると考え、登録を目指すことにしました。


江戸のみどり登録緑地申請に関する打ち合わせ時の様子

鉃鋼ビルが建っている土地は、もともと海に挟まれた陸地でしたが、江戸時代以降の埋め立てによって周囲の陸地化が進みました。それにつれて、かつて沿岸部で見られた植生から武蔵野台地の植生へと変化し、形成されてきたという歴史があります。

それを踏まえて、私たちは武蔵野台地の自然をイメージした在来種にこだわってきました。このような私たちの考えるコンセプトといちばん親和性の高いものが「江戸のみどり登録緑地」だったのです。

また、この制度に登録することで、地域の生態系保全に貢献する企業としての姿勢をより多くの人に知ってもらうことができます。さらに「江戸のみどり登録緑地」として登録された企業・団体との交流と情報の共有ができるというメリットにも魅力を感じました。


鉃鋼ビルディングの環境配慮への取り組み

将来にわたって自然環境と人間社会の調和を保ち、持続可能な社会を実現するためには、開発が生態系に与える影響を軽減することが、現代の企業にとって不可欠な課題です。特に不動産・建設業界では、気候変動や生物多様性への配慮が求められ、環境保護やサステナビリティへの取り組みが強く期待されています。

鉃鋼ビルディングでは、これまで、ビルで使用する電力量について再生可能エネルギー由来の電力100%導入や、人と環境に配慮した建物として「建築環境総合性能評価システム(CASBEE)」で最高評価のSランクを取得するなど、多くの取り組みを行ってきました。

今回の「江戸のみどり登録緑地」優良緑地の登録を通して、気候変動や生物多様性へ積極的に取り組む企業としてのメッセージを、ビルをご利用の皆さまをはじめ、多くの方々に届けたいと考えています。


次回は「江戸のみどり登録緑地」として登録された鉃鋼ビルディングの取り組みや、都心オフィスの限られた土地で植物を管理するうえで大切にしている点などについてお話します。


東京都「江戸のみどり登録緑地」ウェブサイト
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/green/green_biodiv/edo_regist

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都心オフィス街の中で「自然植生の復活」

鉄鋼ビルディングの外観

2015年に丸の内の地に新しく誕生した鉃鋼ビルディング(以下、鉃鋼ビル)の緑化事業は「自然植生の復活」をテーマにして、昔からこの一帯に生息していた木々を植えています。

このプロジェクトでは、鉃鋼ビルのより快適な環境づくりのため、ビル西側通路の緑地帯に再現された自然林と散策路の整備に取り組んでいます。

私たちは、新しい鉃鋼ビルの「人・街・時をつなぐ」という開発コンセプトに則り、この土地にある記憶を未来へつなげ、持続可能な環境づくりのため、このプロジェクトを「時と場をつなぐこみちプロジェクト」と命名しました。

今回は、プロジェクトを担当している増岡英一さんにお話を伺いました。


増岡英一
株式会社鉃鋼ビルディング 取締役


都市と自然との共生

2015年に誕生した鉃鋼ビルは、国内外の多くの人や企業が交差する場になること、丸の内と八重洲・大手町地域をつなぐ拠点になること、そして、戦後復興からの株式会社鉃鋼ビルディングの歴史と伝統を輝く未来へとつなぐ「人・街・時をつなぐ」開発のコンセプトとしています。 

大規模複合ビルとして生まれ変わった鉃鋼ビルでは社会のニーズに応えるため、各所に安全で利便性が高く環境に配慮された施設や空間が計画され実現しています。 

鉃鋼ビルの緑化事業では、その土地に根差した植生がその土地に与えるインパクトを軽減し、適した環境をつくり出せるのではないかと考え、限られた空間ではありますが、この地域の自然植生の再現を目指した植栽を行っています。 


江戸前島の自然植生考

鉃鋼ビルがある現在の場所は、江戸時代以前の入間川(隅田川)の西側と日比谷入江(現在の皇居の東側の丸の内から日比谷、新橋あたりまでにあった入江)の間にあった半島「江戸前島」に位置しています。 

徳川家康の江戸入府以降、江戸城築城工事に伴って出された大量の掘削土を用いて日比谷入江の北部を埋め立てたことを端緒として、この「江戸前島」の周囲は徐々に陸地に変わっていきました。 

この一帯の当時の植生も、陸地に変わるのに従って、ヨシやオギなどを中心とする関東地方にみられる沿岸の植生からイノデ-タブノキ群集を中心とする武蔵野の植生へと変わっていったと考えられています。 

鉃鋼ビルの緑化事業は、このような時代に注目して自然植生を検討することとし、常緑広葉樹落葉広葉樹の大木があり、かつての自然林に近い状態となっている「皇居の植生」と「国立科学博物館付属自然教育園から見た武蔵野の植生」を参考にして計画・実施されました。


自然植生で囲まれた鉃鋼ビル

このような考え方に基づく鉃鋼ビルの緑化事業の対象範囲は、ビルが接道している北側の永代通りの沿道、東側の外堀通りの沿道に加え、東京駅から最も近い南側エントランスと、敷地全体におよびます。

ビル北側にはクスノキを植樹

鉃鋼ビルの北側には常緑樹のクスノキ、ビル東側にあるオフィスエントランス前には同じく常緑樹のタブノキを植樹して、ビルに接道している2つの大きな道路に見合う、明るくしっかりとした存在感のある高木を選定しました。 

一方、鉃鋼ビルの南側広場は、サクラの木が植樹されています。ビル南側は、東京駅八重洲口から来られた方々には正面となる玄関口ですし、地下1階と南館2階のショップ・レストランがあるTEKKO avenue1階のリムジンバス発着場にも通じ、にぎわいを創出する場所でもあるため、シンボリックな植栽が必要でした。 

ビル南側広場にはヤマザクラの木をシンボルツリーとして植樹

ビル東側の外堀通りのサクラや八重洲さくら通りのサクラとの調和も求められたため、サクラの一種であるソメイヨシノを植樹すれば近接する桜並木との一体感も創出できますが、関東平野にはもともとサクラがなかったとされていて、私たちの目指す自然植生の再現と異なる結果になります。 

いくつかの案を検討した結果、江戸時代からこの一帯でも多く栽培されていた日本在来種のヤマザクラをメインに植樹することにしました。このようにして、周囲との一体性にぎわいの創出を図るように工夫をしています。 

また、このビル西側には、約170mにおよぶ緑地帯と通路があり、スダジイシラカシソヨゴなどの常緑高木からイロハモミジエゴノキヤマボウシなどの落葉小高木、ニシキギアオキなどの低木、ヤブランツワブキなどの地被類からなる自然植生の林をつくり、緑を身近に感じられる散策路として整備しています。

ビル西側の散策路にて、時と場をつなぐこみち・プロジェクトメンバーと


小さな自然、江戸前島の空気を深呼吸―親しみのある散策路へと整備

このビル西側通路は、鉃鋼ビルの裏側というイメージが強く、東京駅と外堀通りの往来に通り抜けるために活用する姿だけが目立つ状況でした。しかしながら、よく観察しているとビル南側の広場から散策路にかけて、縁石に腰かけて休息を取られる方や、ビルのリムジンバス発着の時間を待っている方の姿が徐々に増えていることに気づきました。 

私たちは、このようにこの場所で時間を過ごすニーズがあることに着目し、散策路の中にベンチを7か所スツールを3か所に設置し、より便利に鉃鋼ビルを利用して頂くこととしました。ベンチの木材は東京多摩産のヒノキ、スツールに利用した石は江戸城の石垣にも使用されている神奈川県真鶴産の本小松石を採用し、自然林の雰囲気にあった地域原産の素材江戸時代にあったものを活用するように努めました。

東京多摩産ヒノキの無垢材のベンチ

「本小松石」でできたスツール

春秋の風の弱い日や夏の暑い日でも、この自然植生のある小さな通り道の中で少しの時間を快適に過ごしていただけることと思います。スツールやベンチに腰掛けて見上げると、メジロなどの野鳥の姿を見ることができるかもしれません。 

また、散策路内の縁石には、江戸時代以降に起こった、この土地の記憶や私たち株式会社鉃鋼ビルディングの会社の歴史を記したプレートが刻まれています。 

今回はこれらに加えて、緑地帯にある木々に紹介プレートをつけ、散策路を通る方にQRコードでそれぞれの詳しい情報を入手して頂けるようにしています。

樹木札のQRコード

当プロジェクトでは、今後も、ビル西側の緑地帯と散策路が、この土地の記憶を未来へつなぐ場所であり続け、そして、多くの方に愛着をもって利用して頂ける場所となるように、私達は、さらなる環境整備の取り組みを進めてまいります。

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