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ヘラルボニー・アートプロジェクト

「異彩を、放て。」をコンセプトに「福祉を起点とした新たな文化の創造」を目指す福祉実験ユニット「ヘラルボニー」とコラボレーションするプロジェクトです。

             

「異彩を、放て。」 ヘラルボニーと鉃鋼ビルディングの出会いが起こす変化とは(前編)

松田崇弥(写真右)
株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長Co-CEO

増岡洋志(写真左)
株式会社鉃鋼ビルディング 取締役

※所属、役職名は対談実施時のものです。

鉃鋼ビルディングの地下1階「TEKKO avenue」(テッコーアベニュー)に常設展示されている10枚の複製画。作者は障害がありながら才能が光る異彩作家の方々です。今回は異彩作家とライセンス契約を結び、アートを起点に新たな価値や文化の創造を目指し、国内外から注目されている、株式会社ヘラルボニーの松田崇弥氏をゲストにお招きしました(全2回のうちの前編。後編を読む)。


家族がいたからこそ生まれた「ヘラルボニー」

松田 先日は、わざわざ私たちの地元・盛岡まで足を運んでくださり、ありがとうございました。

増岡 盛岡では双子のお兄さまの文登さん(代表取締役Co-CEO)ともお会いできてよかったです。お二人のお兄さまの翔太さんにはお会いできませんでしたが、ヘラルボニーさんの成り立ちには翔太さんの存在が影響しているそうですね。

松田 そうですね。私たちは男三兄弟なんです。会社を経営している私と文登のほかに、4歳上の兄、翔太がいます。兄は重度の知的障害を伴う自閉症です。子どもの頃から登下校中に兄貴が同級生にバカにされたりするのを見ていて、私たち双子は悔しい思いをしてきました。そしていつか福祉領域で創業できたらと考えていました。

増岡 そしてアクションを起こしたと……。

松田 24歳の頃、母に誘われて行った「るんびにい美術館」(岩手県花巻市)で見た知的障害のある方のアートに「これはすごい」と衝撃を受けたんです。その頃、私はオレンジ・アンド・パートナーズという、放送作家で脚本家の小山薫堂さんが代表を務める会社にいました。そこでは「くまモン」のIP(知的財産)事業をしていたので、そこからヒントを得てライセンスビジネスをしようと考えました。

原画でビジネスをするとなると、半年とか1年に1回個展をして、その個展をするために原画を10作品描いて、というような“納期ビジネス”になってきます。でも重度の知的障害がある方は自分のペースで制作しますから、納期で縛るのは向いていません。そこで、作品を高解像度の画像データにしておき、そのデータを使用する企業などからライセンスフィーをいただく。そういうビジネスモデルを考えて、27歳の時に会社をつくりました。

増岡 美術館に誘ってくださったお母さまの影響も大きいですね。そして社名でも翔太さんの存在は大きいと。

左から双子の弟の崇弥氏、4歳上の兄の翔太氏、双子の兄である文登氏

松田 「ヘラルボニー」という社名は、兄貴が子どもの頃に自由帳に書いていた謎の言葉です。辞書にない言葉で、兄貴に意味を聞いても「わかんない!」と言うだけでした。この世に存在しない言葉ですが、私たちがこの言葉に新たな価値を生み出していく、という思いで社名にしました。「異彩を、放て。」というミッションやバリュー(行動指針)も決めました。


共感が導いたコラボレーション

増岡 初めてヘラルボニーさんのミッションを伺ったとき、非常に共感できました。当社には「誰もが輝きだす場所へ。」というコーポレートスローガンがあり、企業理念は「多様化する社会において、人が活躍する場所の環境価値を創造し、社会に貢献する。」です。御社のミッションと共通するところがあると感じ、一緒に何かをしたいと思いました。

松田 ありがとうございます。

鉃鋼ビルディング地下 1 階「TEKKO avenue」

増岡 ライセンス契約をされている作家さんの絵をたくさん見させていただき、驚きました。特別な才能を持つアーティストがたくさんいらっしゃる。ぜひ当ビルで展示して、いろいろな人に見ていただきたいという思いが強くなりました。そこからトントンと話が進んで、昨年7月に当ビル・地下1階の「TEKKO avenue」での展示をスタートできました。最初は1階の大きな空間も考えましたが、最終的には不特定多数の人が通る地下の商業フロアに展示することにしました。当ビルのテーマが「人・街・時をつなぐ」なので、展示する作品もそれに合わせてキュレーションしていただきました。素晴らしい作品ばかりで、飲食店の店長さんからも「お客さまも喜んでくださるし、明るくなって『にぎわい』が生まれた」という言葉をいただいています。皆さんがWin-Winになり、これ以上うれしいことはありません。

松田 テナントさんにも喜んでいただけるのはうれしいですね。


制約は力に変えることもできる

増岡 私は長年テニスをしていますが、視覚障害のある方々にブラインドテニスを教えていたことがあります。教えるというより、実は教えていただく部分の方が多くて。ブラインドテニスというのは、ボールの中に鈴が入っていて、その音を頼りにボールの位置を把握して打ち返すスポーツです。視力や視野の程度によりますが、2バウンド内もしくは3バウンド内で打ちます。私もアイマスクをしてやってみましたが、全然ラケットに当たりませんでした。でも参加者の皆さんはラリーまでしています。

松田 ブラインドテニスは想像するだけで難しそうですね。でも何かの制約があることによって引き出されるものは、きっとあるだろうと思います。例えば地下の「TEKKO avenue」にある「メトロポリタン美術館前」という絵は衣笠泰介さんの作品です。衣笠さんは何かを流ちょうに話す人ではないんですが、絵だとすごく喋(しゃべ)っている感じがします。絵の中に「Car」とか「Jumbo Jet」とか英語で入っていたりして。ご本人は発話で「ジャンボジェット」とか言うわけではないけれど、絵だと喋ってくる。泰介さんのお母さまは「泰介は絵の方が喋るし、絵を通じて泰介が理解してるってことを把握する」ということはよくおっしゃっています。

『メトロポリタン美術館前』衣笠泰介(複製画)

それって出力に近いのかもしれません。パソコンを使って出力できるという人がいたり、口で出力するのが得意な人がいたり。そういう意味では、何かの制約があることによって引き出されるものがあるという点で、通ずるものがあると思って聞いていました。

増岡 そうですね。障害があることで制約が生まれても、すごい才能を持っている人たちがいるということを、身をもって知りました。この素晴らしい才能をもっと知っていただきたいですね。ヘラルボニーさんは、建設現場の仮囲いからファッション、グッズなどさまざまな形でライセンス展開をなさっていますが、当社も、ご一緒にできることを考えていきたいと思います。

(前編ここまで)

後編は、両社の新たな取り組みと今後の展開について語り合います。

後編はこちら

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