現在のハイズオンガーデン(2022年秋撮影)
鉃鋼ビルディンググループは2013年11月、ベトナム社会主義共和国にサービスアパートメント「ハイズオンガーデン」を開業しました。今回はベトナム進出の狙いや事業開発のプロセスなどをプロジェクト担当者にインタビューしました。
大庭明生
株式会社鉃鋼ビルディング 海外事業部 担当部長
グループ初の本格的海外進出へ
当海外事業は2006年にグループ会社である総合建設業の増岡組でスタートしました。
当時の国内建設マーケットは非常に厳しく、建設各社は技術力の向上に努める傍ら収益構造の多様化にも取り組んでいるところでした。
増岡組ではこの多様化の一つとして、海外進出の調査を始め、日本から比較的近く、経済成長が見込めて治安が安定している国として、当時WTO(世界貿易機関)に加盟したばかりのベトナムにターゲットを絞って、2007年から現地調査を行いました。
その結果、同国における建設工事の請負、不動産開発、現地の人材開発を事業の3本柱とし、2008年にハノイ駐在員事務所を開設しました。
2010年には、ハノイで施工図制作会社ADOを設立し現地の人材開発に努める一方、残る事業計画の不動産開発事業にも注力していました。
増岡組が不動産開発を行い建築工事に取り組むことは現地施工体制確立の第一歩とも判断したためです。
不動産開発事業の始まり
私がベトナム駐在員事務所に赴任したのは、2010年です。主にハノイ市でいくつかのオフィスやホテル、サービスアパートメント用地を調査しました。
さまざまな縁があり、ハノイ市から東に60キロほど離れた交通の要衝で、大規模工業団地を周辺に有し多くの日系企業が進出しているハイズオン市のサービスアパートメント用地情報を入手しました。
私たちは10カ所ほどの候補地を視察しました。そして最終的に決めたのが、今の「ハイズオンガーデン」が建つ場所です。
決め手になったのは、周辺の環境でした。隣は小学校ですし、はす向かいには自動車学校があり、大学も近くにある、いわば文教地区です。近隣には税務署、警察署、大きな病院などの公的機関、徒歩圏内にスーパーや映画館もあり、飲食店も多い。また、車で10分ほどのところに、郊外型の大型スーパーもあります。
ここならば、サービスアパートメント事業が成立しそうだという予感を与えてくれる立地だったのです。
建設地の契約までの交渉、30回
立地が決まったら、いよいよ交渉です。
ベトナムでは土地の管理は国家が行い、企業や個人などが土地を所有することは認められていません。そのため、建設用地を確保するためには「国家」か「国家に承認された国家に準ずる機関(工業団地の開発会社等)」から、リースかサブリース(転貸)をしてもらうための交渉をします。
こちら側は現地の人脈を持っているベトナム人スタッフが前面に立って交渉にあたりました。ベトナム人は「交渉上手」と言われますが、相手もなかなかタフでした。通訳はしてもらうものの、正しく伝わっているか分かりませんし、不安を抱えながらの交渉でした。結局、30回近く交渉の場を設け、ようやく契約が成立しました。
今振り返ると、「ハイズオンガーデン」の準備の中で、この交渉が一番大変でした。
日本人駐在員の「住まいの悩み」に応えるために
立地探しや土地の交渉と並行して、私たちは、ハイズオンの日系企業で働く駐在員に、住環境についてのアンケート調査を行いました。進出していた日系企業で働く日本人駐在員は400~500人ほどいたと思います。
われわれスタッフは3人でしたが同地でほぼすべての日系企業にそれぞれ3~4回のアンケートを実施しました。
市場調査で分かったことは、住環境や通勤に関する不満でした。
日本人駐在員の多くはハノイから通勤していました。ハノイからハイズオンまでは車で片道2時間ほどかかります。毎日、往復4時間かけて通うんです。私もハノイからハイズオンまで何度も通いましたので、そのつらさが身に染みて分かりました。
ハイズオンの一軒家に住んでいる人もいましたが、当時の住環境はあまり望ましいものではありませんでした。また、ハイズオンには大きなホテルもありましたが、欧米のスタイルなので部屋の中で靴を履いたままですし、照明が暗めで日本の住環境と違うため長期滞在すると疲れてしまう人もいました。
「もっといい環境のところに住みたい」という意識を持つ日本人駐在員が多かったのです。
調査を通じて、ハイズオンには日本人向けの滞在施設の需要がある――そう確信しました。同時に、駐在員の方々の住環境を改善しなければならない、という使命感のような思いも強まっていました。
2011年3月、株式会社鉃鋼ビルディングと株式会社増岡組が共同出資し、ハイズオンにTMベトナム開発有限会社(略称「TMVD」)を設立しました。
サービスアパートメント「ハイズオンガーデン」の開発は、こうして始まったのです。
次回は、契約交渉、行政手続、現地法人設立に至るまでの開発プロセスについてお話します。